中小企業に広がるガイドライン

日本政策金融公庫の取り組み

経営者保証に依存しない資金調達を応援するため、平成25年末「経営者保証に関するガイドライン」(以下、ガイドライン)が公表されました。経営者個人と法人との関係が明確に区分・分離されている場合などに、経営者の個人保証を求めないことなどが示されています。一方、中小企業経営の現場からは「借り手側から保証なしでお願いしたい、とは言いにくい」とか「保証なしで融資を申し入れたら、融資自体を断られそう」といった声も聞こえてきます。ガイドライン公表以降、金融機関の中小企業への融資はどう変わったのか。また、金融機関はどのようにガイドラインの普及に取り組んでいるのか、政府系金融機関である、日本政策金融公庫(以下、日本公庫)の方にお話をうかがいました。 取材日: 平成28年1月26日 文中記載の数値や、所属部署・役職は取材当時のもの

  • 前田 壮一 さん
  • 中小企業事業本部
    営業推進部
    業務運営グループ長
  • 蛭田(ひるた) 健一 さん
  • 国民生活事業本部
    融資企画部
    制度企画グループリーダー
  • 平塚 雅弘 さん
  • 中小企業事業本部
    企業支援部
    支援企画グループ長
  • 纐纈(こうけつ) 和人 さん
  • 国民生活事業本部
    企業支援室
    企業支援グループリーダー

経営者保証に関するガイドライン」公表以降、んな変化がありましたか。

日本公庫としても
積極的に取り組んだ結果、
利用者が急増しました。

前田さん

前田さん :日本公庫では、平成17年に創設した「保証人特例制度」という、中小企業者を対象とした制度があります。この制度の利用実績は、ガイドライン公表前の平成25年度でも1,898件の実績がありましたが、ガイドライン公表後はさらに実績が増え、平成26年度は8,655件と急増しています。件数で456%、金額ベースでも420%の伸びとなっています。 ガイドライン公表後に、「保証人特例制度」の利用件数が急増したのは、制度を利用する中小企業経営者の方からの相談や申し出が増えたこともありますが、日本公庫としてもより積極的に取り組んできた結果でもあります。

小規模企業者向けの
無担保無保証の融資制度を
推進しています。

蛭田さん

蛭田さん :それ以外にも、昭和48年に創設した「経営改善支援資金(いわゆる「マル経融資」)」というさらに従業員規模の小さな、いわゆる小規模企業者向けの無担保無保証の融資制度や、平成13年に創設した「新創業融資制度」という創業者向けの無担保無保証の融資制度が存在しており、ガイドライン公表以前から、こうした事業者の方々に対しても、経営者保証に依存しない融資を推進しているところです。また、小規模企業者の方々からも、経営者の個人保証をつけない融資を希望する声は少しずつ増えてきてはいますが、劇的な変化はない、と考えています。なぜなら、小規模企業者の場合、個人資産を事業に投入して経営を成り立たせる動きがまだ多く、「法人個人の一体性の解消」が進んでいない、という現状があると考えられるからです。ガイドラインにおいて、債務者は、「法人個人の一体性の解消に努めること」と記されていますが、小規模企業者においては、それに該当する例が少ないのが実情となっています。

経営者保証なしで融資された事例はどのようなものがありますか?

日本公庫がガイドラインに
対応することで、民間金融機関も
保証人を徴求しない事例などが
でてきています。

前田さん

前田さん :日本公庫と民間金融機関で協調融資を行うことも多いのですが、そうした場面でも変化が生まれてきました。協調融資とは、例えば、工場建設などで設備資金5億円を融資するような場合に、日本公庫1億円、民間金融機関2行で2億円ずつ融資したというようなケースを想定していただければイメージしやすいかと思います。このような場合の例をご紹介しましょう。 日本公庫は、融資先の企業から希望があり、ガイドラインの要件を満たしていると判断できる場合には、経営者保証なしの融資対応を行うことができることを伝えます。協調融資では、民間金融機関も政府系金融機関と融資期間などを同条件とすることが多いため、日本公庫と同様に保証人を徴求しない事例がでてきています。 このように、日本公庫がガイドラインに対応することで、結果として徐々に民間金融機関のガイドライン適用拡大につながっていると思います。

それは、大きな変化ですね。中小企業経営者にとっても、ガイドラインが示す「法人個人の一体性の解消」や「財務基盤の強化」を目指すインセンティブになりそうです。ガイドラインには、多額の個人保証を行っている場合でも、早期に事業再生や廃業を決断した際、一定の生活費を残すことや「華美でない」自宅に住み続けられることなどを検討すること、が記されています。

ガイドライン公表当初に比べて、
浸透している感触をもっています。

平塚さん

平塚さん :中小企業者の保証債務の整理の状況についてお話しします。保証債務の整理においては準則型私的整理手続きにより主たる債務の整理を行う局面で主に活用されています。中小企業再生支援協議会等による再生手続の中で、主たる債務について債権放棄等を検討するとともに、保証債務についてもガイドラインを適用して一定の生活費を残すことや「華美でない」自宅を残す事例が出てきています。ガイドライン公表当初に比べて、徐々に浸透している感触をもっています。

経営者の再チャレンジや
経営再建を積極的に支援しています。

纐纈さん

纐纈さん :中小企業者だけでなく、小規模企業者においても、ガイドラインに基づき、主たる債務の整理と同時に保証債務の整理の要請を受ける事例が徐々に増えてきています。日本公庫としては、こうした要請に適切に対応し、手元に一定の生活費や華美でない自宅を残したうえで保証免除を行い、経営者の再チャレンジや経営再建を積極的に支援しています。

日本公庫では、これまでも保証人を考慮された融資対応を行ってきていたこと、ガイドラインの公表により更にその実績が増加していることがよくわかりました。本日はお忙しいところ、ご協力いただきありがとうございました。